極私的日記

ただの日記

回転木馬のデッド・ヒートその1

 村上春樹氏の作品が好きだ。特に短編集やエッセイが好きだ。モチーフが柔らかく提示され、そのすき間が心地よいからだ。

 いま、回転木馬のデッド・ヒートを読み返している。村上氏が当時(世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドを出版した直後)一気に作家としてのレベルを上げたことがわかる短編集だ。ここでは何らかの「つきものが落ちた」短編が8編スケッチされている。

 「はじめに」について。「自己表現が精神の解放に寄与するという考えは迷信であり、好意的に言うとしても神話である。(前略)自己表現は精神を細分化するだけであり、それはどこにも到達しない。(後略)人は書かずにいられないから書くのだ。書くこと自体には効用もないし、それに付随する救いもない」、「我々が意志と称するある種の内在的な力の圧倒的に多くの部分は、その発生と同時に失われてしまっているのに、我々はそれを認めることができず、その空白が我々の人生の様々な位相に奇妙で不自然な歪みをもたらすのだ」など、ハルキスト的なフックが多い。村上氏は「はじめに」を書くことで、つきものが落ちたのかなぁ。前書きからもうおもしろい作品である。